婚約者が妹だった話【YouTube漫画】

こんにちは、松宮望です。

「好きになった女の子が妹だったら?」をテーマにシナリオを書きました。

僕はフユキ。世界一の幸せ男だ。

「おまえさ、プロポーズに成功したからって、さすがに浮かれすぎじゃない」

「えーそうかな〜。えへへー」

「だめだ、こりゃ」

先日、三歳年下の彼女、ハルカに指輪を渡してプロポーズをした。

断られるとは思っていなかったけれど、やはり緊張はするものだ。

笑顔で指輪を受け取ってくれたときは、幸福としか言いようがなかった。

僕はこれから彼女を幸せにするためだけに生きていく。

もちろん、義務感からではない。彼女の笑顔を見た時、僕自身が強くそう思ったのだ。

「食事ご一緒してもいいですか?」

幸せの余韻に浸っていると声がした。

立っていたのは僕の彼女、ハルカだった。

ハルカとは同じ職場で働いている。

僕とハルカは、上司と部下の関係だ。

高卒で入社してきた彼女の面倒を見ているうちに惹かれたのだ。

彼女の真摯に仕事に向き合う姿勢や、あどけない笑顔。

そして、引力のような魅力が彼女にはあった。

僕と同じく片親だったことも、互いの繋がりを強くしていったのかもしれない。

「ハルカちゃん聞いてくれよ。フユキはもうだめだ。完全に幸せボケしてやがる。こんなポンコツ捨てて、俺と付き合わないか」

僕はアキトの頭をチョップした。

「いてぇ!」とアキトは大袈裟に頭を抑えた。

「こいつ将来は暴力亭主になるよ。今のうちに別れたほうがハルカちゃんのためだよ」

「なるかアホ!僕はハルカを世界一幸せにするんだから!」

「フ、フユキさん、恥ずかしいです・・・」

社内食堂で啖呵を切った僕に、ハルカは恥ずかしそうに頬を赤らめうつむいた。

照れた顔もめちゃんこ可愛かった。

 

「はぁ〜。すごく緊張する」

「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。お母さんにはフユキさんのことを伝えていますから」

「お前のような男に娘は渡さん!って怒られないかな」

「今時あるのかな?でも、フユキさんの名前を出した時、ちょっと様子がおかしかったかも」

「マジですか・・・」

「まぁ、これまで恋の一つもしてこなかった娘に、突然彼氏ができたと言われたら、世の中のお母さんは驚いて様子ぐらいおかしくなると思いますけどね」

「もう、からわかないでくれよ・・・」

「ふふ、ごめんなさい」

どうやら僕の彼女は、僕をからかうことが好きらしい。

チロっと舌先を出した小悪魔めいた表情も可愛いから卑怯としか言いようがない。

 

「あ、あなたがフユキさん・・・」

「は、初めまして、ハルカさんとお付き合いをさせていただいているフユキと申します!」

「まさか本当にフユキだったなんて・・・」

頭を下げ続ける僕に、ハルカママが戸惑いの声を洩らした。

涙を必死にこらえるような声だった。

僕は不思議に思いつつ顔を上げた。ふいにハルカママに抱きしめられた。

「ごめんね、愛してあげられなくてごめんね。立派に成長してくれてありがとう・・・」

僕を抱きしめながら、涙をこぼすハルカママの姿に、僕は昔のことを思い出していた。

母さんが妹を連れて、家から出て行った日のことだ。

僕を抱きしめながら、「ごめんね」と母さんは言ったのだ。

そのときの声と姿が、ハルカママの姿と重なった。

母さんの顔も覚えていないのに、「僕の母親なんだな」と漠然と思った。

 

僕はかなり冷静だった。

この家に来る前に感じていた恐怖心やドキドキはもうなかった。

悲しくなるほど何の感情も湧かなかった。

「久しぶり、母さん、ハルカ」

僕は母親と妹に向けて淡々と言った。

口にした瞬間、ハルカとの未来は閉ざされたことを僕は理解した。

僕とハルカは付き合って最初で最後の喧嘩をした。

「いやです!絶対にいやです!私、フユキさんと別れたくありません!」

「しょうがないだろ!僕たちは兄妹なんだ!結婚なんて無理なんだよ」

ハルカは顔を真赤にしながら泣きじゃくった。

泣かせたくなかった。ずっと笑っていて欲しかった。

幸せにしたいと願った誓いは、僕自身が破ってしまった。

僕は月並みの言葉でしか、ハルカを慰めることができなかった。

僕は最低の兄貴で、最低の彼氏だったのだ。

 

「はぁ・・・」

「また溜息かよ。今日で何回目だよ。まあ、分からないでもないが」

ハルカが妹だったことを、アキトにだけ話した。

僕たちの関係を祝福してくれていた同僚は、僕たちが別れたと聞いて少し落ち込んでいるようだった。

溜息をつくたびに、アキトが嫌な気持ちになることは分かっていた。

だけど、自然と溜息が出てしまう。僕は世界一不幸な男に違いなかった。

「別れたんだったら俺がハルカちゃん口説いてもいいか?」

唐突にアキトが言った。

「なっ、なんでだよ!」

「俺がハルカちゃん好きだからだよ。あんな可愛くて性格がいい子なんて他にいないからな。今は傷心中(しょうしんちゅう)だから簡単に口説けそうだ。結婚することになったら、ちゃんと祝福してくれよ『お兄ちゃん』」

僕はカッとなって、アキトを殴りつけた。

椅子から転げ落ちるアキトを見下ろしながら、叫ぶように言った。

「ふざけるな!ハルカは誰にも渡さない!お前にも絶対に渡さない。どんな男にも渡すものか!」

「それがお前の本心なんじゃないの?」

アキトは頬を抑えながら椅子に座り直した。

「今の状況は確かに難しいと思う。兄妹だから別れる。ハルカちゃんの未来のために別れる。フユキの言葉も分からないでもないよ。でもさ、お前自身とハルカちゃんの気持ち無視してるんじゃないか。お前の本心はどうなんだよ」

本心なんて最初から決まりきっている。

「ハルカと一緒にいたい。生まれて初めて好きになった女の子なんだ」

僕はハルカに運命めいた引力のようなものを感じていた。

今思えば、血の繋がりが僕たちを惹きつけたのかもしれない。

この気持ちは偽物かもしれない。でも、否定したくなかった。

彼女と接してきて、僕のなかに生まれた気持ちのすべてが嘘とは思いたくなかった。

「私もフユキさんと一緒にいたいです」

ハルカが涙まじりの笑みを浮かべて立っていた。

 

その後、僕とハルカは仕事を辞めた。兄妹の関係がバレて職場に居づらくなったのだ。

僕たちは逃げるように遠くの街へ引っ越した、今は小さなアパートを借りて一緒に住んでいる。

僕とハルカが結婚することはもちろんなかった。付き合っているわけでもない。

だけど、僕たちは一緒にいる。

一緒にいることが大事だった。

今の関係に僕は名前をつけることはできない。

兄妹の関係なのか、恋人の関係なのか、自分のことなのに分からない。

ハッピーエンドとは言えない結末。

けれども、僕とハルカは今日も笑っている。

案外、幸せなことなんじゃないかなと僕は思っている。

小さい幸せを拾い集めながら、僕たちは生きていく。