キャンドルを灯す売れない作家の話【YouTube漫画】

こんにちは、松宮望です。

「作家×キャンドル×誕生日」の三題噺でシナリオを書きました。

僕はフユキ。26歳の売れない小説家だ。

5年前、僕は大手出版社が行っていた小説の新人賞に応募して受賞した。

作家になることが子供の頃からの夢だった。受賞したときは嬉しくて涙が止まらなかった。

これからはプロ作家としてたくさんの物語を読者に届けたい。

僕の心にはたくさんの夢と希望で詰まっていた。

だけど、実力がない者に対して、現実は甘くなかった。

僕の本は全く売れなかったのだ。

26歳にして月収は7万円。

忘れたころに舞い込んでくる短編小説の仕事や、インターネットで募集しているライターの仕事で、何とか生活費を稼いでいる。

僕には同棲中の彼女がいる。2歳年下の幼なじみで名前はハルカ。

24歳といえば結婚していてもおかしくない年齢なのに、彼氏の月収は7万円。

ハルカは保育園で働いている。だいぶ前、確か僕たちが学生だった頃に、「私、片親だし兄妹もいなかったから、子供はたくさん欲しいんだ」と言っていたことがあった。

子供どころか、結婚なんて夢のまた夢。

僕の小説みたいに下手くそで現実味のない夢見がちな空想の話だった。

ハルカの25歳の誕生日が近づいていた。

素敵なプレゼントを渡したかったけれど、僕にはお金がない。

安物なら買えるかもしれないけれど、「私のために無駄遣いしないでよ!」ときっとハルカに怒られてしまう。

ハルカへのプレゼント選びで物思いに耽っていると、キャンドル工房が目に留まった。

ハルカのお母さん、ナツミさんが経営しているお店で、手作りキャンドを販売している。

確かキャンドルの作り方を教える教室も開いていたはずだ。

「そうだ!」

ふと思いついたことがあって、僕はキャンドル工房の扉を開けた。

僕たちは2人だけでささやかな誕生日会をした。

本当はホールケーキを買いたかったけれど、ハルカに止められてショートケーキになってしまった。

イチゴが1個ちょこんと乗っただけの平凡なショートケーキ。お店で一番安いケーキだった。

もっとハルカに裕福な生活を送らせてあげたい。欲しい物や好きなものをたくさん買ってあげたい。僕を選んでくれたハルカを幸せにしたい。

理想を現実にできない自分の無力さを呪うしかなかった。

「これプレゼント。誕生日おめでとう」

「やっぱり買ってたんだ。あれほどいらないって言ったのに…。でも、ありがとう。いらないって自分で言ったくせに、もらえるとやっぱり嬉しいね。開けても良い?」

「うん」

「キャンドルだ…。これってお母さんの工房のだよね?」

「出来が悪くてごめん。これ僕が作ったキャンドルなんだ。ナツミさんから教えてもらって作ったんだけど、形が不格好になっちゃって」

「ふふ、確かにちょっと見栄えは悪いかもね」

「気に入らなかったら、捨てちゃっても良いから」

「捨てるわけないでしょ。大切に使わせてもらうね。でも、ビックリしたな~。フユキくんから手作りキャンドルを贈られるとは思っていなかったよ。どうして、キャンドルを作ろうとしたの?」

「火が灯れば良いなって思ったんだ」

「どういうこと?」

きょとんとするハルカ。僕はギュッと握りこぶしに力を込めて、今の気持ちの全てをぶつける。

「僕たちの未来に明かりを灯したかったんだ。今の僕は売れない作家で、ハルカを全然幸せにしてあげられていない。でも、頑張るから!キャンドルに灯る暖かな火みたいに、必ずハルカの心を暖かくできるようなそんな男になるから。だから、今は頼りない僕だけどこれからも信じてついてきて欲しい」

ハルカは目を丸くした。

それから、「はぁ~」と心底呆れたような長い溜息をついた。

「バカ。おおバカだよ。フユキくんの言い方だと、今の私、すごく不幸みたいじゃない。勝手に私の気持ちを決めつけないで欲しいんだけど」

ジト目になりながら、拗ねたような口調で、僕を責めてくる。

ハルカの言葉が意外すぎて、「えっ、えっ」と慌ててしまう。

「私、フユキくんのこと疑ったことはないよ。今も信じ続けている。ねえ、覚えている?両親が離婚して、私が悲しんでいる時、フユキくんはよく物語を書いてくれたよね。読んでいるだけで心が温かくなるような物語をたくさん」

「次の話ができたら、また私に見せてよ。私、フユキくんが側にいてくれて、フユキくんが書いてくれたお話を読めれば幸せになれちゃう、そんな女なんだから。これからも私を幸せにしてね」

ハルカの言葉を聞いて、僕は涙が止まらなくなった。

5年の月日が流れた。

今日はハルカの誕生日だ。

僕たちの前には、イチゴが1個ちょこんと乗った可愛らしいショートケーキと、不格好な形のキャンドルが置かれている。

妻と息子の誕生日には、僕の手作りキャンドルを置く習慣ができていた。

「ホールケーキ買えば良かったんじゃないか?」

「これでいいの。大きいケーキ買っても食べきれなかったら、もったいないでしょ」

それなりに裕福な生活ができるようになった今でも、ハルカは無駄遣いをしようとしない。

ハルカの前で涙を見せた一年後に、僕の小説に重版がかかった。

人気女子校生ユーチューバーのフブキさんが、自身のYouTubeちゃんねるで、僕の本を紹介してくれたのだ。

フブキさんはイジメから不登校になっていた時期があったのだが、僕の本を読んで再び学校に行く気になったようだ。

「私を救ってくれた一冊」とフブキさんが紹介してくれたことから、口コミが広がり、僕の本は売れるようになったのだ。

「はい、誕生日プレゼント」

僕は原稿用紙を渡した。ハルカのために書いた物語だ。

「ありがとう。アキトにも読み聞かせてあげるからね」

「やった!」

キャンドルの暖かさに包まれながら、僕たち家族に笑顔が広がった。